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『正劇オセロと貞奴』構成+演出・はせひろいち、〈劇中劇『正劇オセロ』原作・
シェイクスピア、翻案・江見水陰、潤色・はせひろいち〉、ウイングフィールドに
て。
案内状をいただいて、これはオモシロそうな公演だと察知して、なんとしても観た
い、と思いました。森田雅子先生の労作「貞奴物語 禁じられた演劇」(ナカニシヤ
出版)で予習をしてから、劇場へ。
簡単すぎる評伝的な流れと、劇中劇的な「正劇オセロ」の短縮版とを併せて65分くら
いの上演で、これは意外。2時間前後の上演時間になるのではないかと勝手に思い込
んでいました。評伝的な部分である、冒頭の、川上音二郎と貞との無謀な船旅が基調
を成しているようで、「オセロ」でも、雨音などの効果音が頻繁に鳴りつづけるのは
演出の戦略だと感じました。私にはその意図はわからないけれども、それが好ましく
思えた。また、ほとんどを、椅子に腰かけての演技であったのも、ウイングフィール
ドという空間での無駄な動きを封じる、というこれまた演出的戦略、と穿ち過ぎであ
ることを承知のうえで、いいきってしまいたい。理由はといえば、些細なことかもし
れないけれど、本作を擁護したくなるような、私にとって好ましい公演だった、とい
うことに尽きる。ただし不満も多々ある。ひとつだけ記せば、オセロと、デスデモー
ナをはじめとするヴェニス在の登場人物とのあいだにあるはずの、人種と宗教の問題
にまったく触れていないことだ(単にコトバではなく演技として)。でなきゃイアー
ゴーの立場がないではないか。『オセロ』という戯曲の肝はそこにあるはず、と私は
思うのだが。
森田雅子先生の本には『正劇オセロ』の当時のポスターやデスデモーナの寝室の場面
の舞台写真が掲載されていてありがたい。
余談ですが、ジョンズ・チルドレンという英国のバンドに「デスデモーナ」という、
ヒットとは縁のなかったシングル曲がある。ティラノザウルス・レックス(後のT・
レックス)結成以前のマーク・ボランがギタリストで、作詞作曲も彼だ。リード・
ヴォーカリストが居るので、マーク・ボランはバッキング・ヴォーカルにまわってい
て、独特のヴィブラートをきかせた声を響かせている。私の耳にはデスデモーナでは
なく、デッセモーナと聞こえる(耳が悪いんとちゃあいますか)。