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『一万石の恋 裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇』監修・山田洋次、脚本・山田洋次+
朱海青、演出・小野文隆、国立文楽劇場にて。私がイチバン好きな劇団は、たぶん前
進座かもしれないなあ、なんて劇場に向かうときに思っていたけれど、違うかもしれ
ないと考えながら帰路についた。
前進座さんに限らず、落語を元ネタにした芝居は結構ある。本作も「妾馬」を原案と
している。あくまで原案で、そのまんまのストーリーではないのだけれど、脚本に甘
さ、というか観客への甘えがあるように感じた。人物の輪郭が典型的に過ぎるし、ス
トーリーは着地点ありきの展開で、ややこしくなりそうな事象には決して踏み込ま
ず、見て見ぬふりをする。鏡花さんの『深沙大王』は、同列に見えてドラマツルギー
の根幹が大きく異なる。伝えたいことがこれでもかというくらいに明確で、そこには
痛烈なサタイアとアイロニーがくっきりと表出している。つまるところ思想のモンダ
イだろうか。エンターテイメントというだけでは、演劇の強度に限界があるというの
を確認させられたように思う。
映画監督の山田洋次さんを迎えての、裏長屋騒動記の2作目だそうだが、長屋の住人
たちが、寅さん映画のように、おなじみの面々としてみることができないのもつらい
(前作は知らないのでレギュラー登場人物ではないのかもしれない)。加えて演出的
には、小さなことだけれども〈正しくない〉と感じて、手直しして欲しい、と思って
しまう箇所もあった(私的には、ですが)。と、ここんところまで読んでいただいた
みなさんは、ここでひっくり返ってしまうかもしれないですけれど、とってもオモシ
ロかった。楽しかったし、満足感もあった。とにかく役者さんたちが大好きになる。
このようなことを記してしまったのは、前進座さんのスゴイ芝居を、何作品も観せて
いただいたことがあるからである。
落語はやはり、落語として観るのが良いんだろうなと思う。
2021年10月07日
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