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『親の顔が見たい』作・畑澤聖悟、演出・熊本一、谷町劇場にて。
この戯曲は私にとってすごくキツイと感じるものだった。キツイというのは作品レ
ヴェルのことではなく、その内容であり、登場人物に共感できないことにある。立場
が逆転すれば共感、ということになるのかもしれないが。とはいえ戯曲に内在する力
は圧倒的だ。
四方客席で舞台を取り囲む。舞台でのやり取りを見守る私は、観客というより、会議
室に招かれなかった2年3組の、生徒の保護者のひとりであるという気分にさせられ
る。ひとり一人が舞台を取り囲み、いじめ生徒の親たちの卑劣さを批判する社会全体
となる。立場が反転することの恐怖を押し隠しながら。この舞台構造は劇団大阪さん
の、演出者である熊本さんの発案によるものだろうと推測する(戯曲本での、劇団昴
による初演とみられる舞台写真では異なる)。これだけでもうこの公演の演出的な成
果は約束されたといえる。
舞台上には事務机というには立派すぎる机が2卓。同じく異様に高級感のある椅子が
(たぶん)12脚。それは客席背後に掲げられた、イエスを抱きかかえた聖母マリアを
描いた絵画とともに、その中学校がどのような学校でどういう教育方針を示すのかを
端的に表している。
俳優に与えられた動線は、2卓の机を縫うカタチでの「日」の字と1箇所の登退場口の
みである。シンプルな動線での移動の繰り返しと、基本的にはそれぞれが与えられた
席に着いているというミザンスは、私としては、完璧だったといっても許されるだろ
う考える。緊張感で張り詰めた空間での演技も見どころが多く、みなさん素晴らし
かったが、翠の父(上田啓輔さん)、志乃の母(夏原幸子さん)、愛理の母(東久美
子さん)、学級担任(七星さん)が強く印象に残った。出演者のみなさんが、登場人
物それぞれのもつ背景を丁寧に演じられていた。そういうことが可能であるのは、つ
まるところ戯曲の良さということになるのだろう。
音響効果に関しては、不必要なものがなかったか、距離感が妥当であったか、など気
にならないではない。
劇団未来さんと劇団大阪さんは、自前の小劇場を運営されていて、コトバは古くてス
ミマセンが、自家薬籠中の空間をお持ちなのはうらやましいことこの上なし。
追記、
上記の作文を書き終えてからパンフレットを広げたら、熊本さんの文章が掲載されて
いて、「小劇場の中心にボクシングのリングのような、相撲の土俵のような舞台を仕
組み、観客は四方から観るという形にした」とありました。先に読んどけっちゅうハ
ナシや。
2024年11月18日
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