『イエスタデイ』作・清水邦夫、演出・増田久美子、A&Hホール。日本海側沿いの町
にある古びた写真館。そこでの、戦時中の記憶。反戦ドラマとしてあるのに、声高に
叫ぶのではなく、凛とした美しさをたたえながら幻想的に描かれる。長崎の原爆禍を
語るシーンにおいても、静けさと美しさが際立った。それゆえ、胸に響いたといえる
だろう。
台詞は、一貫して心地よい時間の流れを紡ぎだす。俳優が声を張る場面でも、世界が
淡く感じられるのは、描かれたドラマが静謐さ満ちている(と私には感じられた)か
らだろうか。戦時中の時間ではヘルマン・ヘッセやチェーホフの、詩と台詞が引用さ
れ、写真館の取り壊される今、タイトルの所以となるビートルズの名曲の歌詞が引用
される。それが、主人公の記憶としての過去を逆照射する。戯曲は未読だったため、
ラストシーンに意表をつかれ、その見事さに息をのんだ(戯曲のト書き通りであると
思うのだが)。
光と影のコントラスト、時にきわどい色彩を組み合わせた照明デザイン(根来綾子さ
ん)もまた、記憶というある種の幻想を語る本作の成果に、大きく貢献したと感じ
た。
2025年11月23日
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